幻聴日記からの9章

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Sense of Audio 01, 02, 03 ◆My Favorite Cinema 01 ◆Cosmic on Bach 01 ◆MILANO1979 01 ◆三味線音楽 01
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Photo & Text: m a c h i n i s t


My Favorite Cinema
The Sacrifice「サクリファイス-1986」

西側に亡命したタルコフスキーが最後に手掛けた作品。日常が徐々に蝕まれ世界が破滅に近づいていくという重いメッセージなのだが、最後まで飽きさせないテンションと澱のように沈殿する重層的な質感にただ見入ってしまう。この作品は2、3回見ただけでは、その雰囲気に呑まれるだけで核心には到達できそうにない。

英国のマルチアーティスト、フィリップ・リドリーの初長編作品であるThe Refecting Skin(柔らかい殻-1990年)は鮮烈でしかも分かりやすいけれど、具象的な事実を重ねながら見えない大きなものを伝えている。一面に拡がる黄金色のトウモロコシ畑と青い空。少年の目を通した尋常ならざる人間の生業と儚さ。その映像の浸透力はずば抜けていると思う。ここにマイナスの輝きを重ねると、「サクリファイス」と同質の自然観が見える、といったら言い過ぎか。


Wrong Move「まわり道-1974」

ヴェンダースの「パリ・テキサス」は公開当時、ライ・クーダーのサウンドの触感とあいまって好きな作品だった。最近見直してみたら、家庭を捨てた中年男の身勝手さだけが目について、かっこ悪!と思ってしまった。初期の「まわり道」はロードムービーのシンプルで平坦な組立てが些細な出来事にライブ感を与えている。ナスターシャ・キンスキーが聾唖の少女役で出演していて、目の演技がすでにその魔性を顕わにしている。

「デッドマン-1995 ジム・ジャームッシュ」はニール・ヤングのギターを全編にちりばめたウエスタン版ロードムービー。モノクロームの画面が不思議な事象を巧みに伝えている。撮影はロビー・ミューラーで個人的には大嫌いな「ダンサー・イン・ザ・ダーク」を撮った人、自然なのになぜかユニークな視線が好きだ。


Julia「ジュリア-1977」
東西冷戦下の緊迫した空気を描いたらジンネマンを越える表現者はいない。「ジャッカルの日-1973」はもちろんいいけれど「日曜日には鼠を殺せ-1964」はさらに素晴らしかった。「ジュリア」は時代の緊張感を湛えながらも、バネッサ・レッドグレイブとジェーン・フォンダが演じる女性像が別格的に素敵だ。原作者が女性だからか・・・。


The Fabulous Baker Boys「恋のゆくえ-1989」

売れないピアノデュオブラザーズが女性ヴォーカリストを入れてちょっと脚光を浴び、その後いろいろあってヴォーカリストは去っていく。幕切れのほろ苦さが心地よい大人のシネマだ。音楽はディブ・グルーシン。仕事の方向性で兄と衝突した弟が酒場でやけ気味に弾くピアノソロは、青い炎のようなパッションを放っていて、この時代のグルーシンの心情につながる気がした。監督のスティーブ・クローブスはその後「ハリー・ポッター」シリーズの脚本なんかを手掛けているけれど・・・


Goodbye, Children「さよなら子供たち-1987」

ナチスによる迫害という重い背景にもかかわらず、いっさいの輪郭強調を排除した演技と映像でルイ・マルが自身の少年時代を綴っている。山の中で、黄昏から闇に至る時間を共有する少年2人の動静。このデリケートで儚い映像はまさに映画でしか表し得ない美。終盤、ナチに連れ去られる友人が主人公にそそぐ視線が哀しい。

映画美といえば「イル・ポスティーノ-1995 マイケル・ラドフォード」の寡黙な、しかし匂い立つような光彩も忘れられない。ドラマは盛り上げようとすればするほど、その作為を隠せないということの反証明。ちなみに今オンエアー中のポカリスエットのCM*は「イル・ポスティーノ」の表面だけなぞったパクリじゃないだろうか。(*2004年夏)


監督中心主義というわけではないけれど・・・

演劇は、幕が上がると演出家の支配力は失われ、役者の天下になる場合もある。その点、映画は多くの人が関わるにしても、平面+時間のエディトリアルアートだから監督の意向どうりに出来上がるものだ、たいていは。作品のテーマがどうであれ、滲み出る監督の匂いを嗅ぎたくて映画を見ている。その「匂い」は監督自身の世界観と言いかえてもいい。なにげないオブジェクトの置き方、あるいは人間どうしの些細な関係性から、時空の構造や世界の終末を提示するするような映画を見たいと思っている。近年のハリウッドのご都合主義刹那的螺旋シネマは、見ている時間だけを楽しませるという価値しかないと思うが、ことしのGW、ほとんどの生活時間を「24-TWENTY FOUR」に費やしたぼくには大きなことは言えないかも・・・。


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