幻聴日記からの9章

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Photo & Text: m a c h i n i s t


Voices 02
001 イエスタデイズ

ビリー・ホリディの歴史のなかでコモドア時代の録音がとくに好きだ。この「YESTERDAYS」は1939年のセッションで、有名な「奇妙な果実」と同じ日に録音された4曲のうちの一つ。幸せだった日々を淡々と唄っている。
最近、この曲のオリジナルメディアであるコモドアのSP盤を入手した。片面は「I gotta right to Sing the Blues」。N.Y.5番街のBrunswick RecordのBdcstg Studioで収録された、と日本盤LPに解説があった。SP盤が廻ると、音みぞを通して65年前のビリーとダイレクトにつながるような気がする。


010 唄のないフラメンコなんて・・・

唄のない「津軽じょんがら節」はまったく面白くないけれど、ギター演奏だけの「フラメンコ」にもあまり興味がない。
カルメン・リナーレスはカンテ・フラメンコの伝統を受け継ぎながら、現代のまさに生きた音楽を具現するアーティストであると思う。その声は鋭利でありながらグラマラスな熱気を伴っている。このアルバム「La Iuna en el rio」は、曲によってフルートやチェロも動員した多彩な音づくりなのに、これらの作為が音楽の内側の血の濃さを一向に減らさないことに驚く。両翼に位置するギタリスト、Paco CortesとPedro Sierraも強靭でハイスピード、ときに天を舞うような軽やかさ。 AAD表記のアナログ録音で、どこまでも伸びる強大なDレンジと漆黒のSN感に驚愕。
写真右下のジャケット「シャンソン/フラメンカ」これもカンテ・フラメンコ。一流どころ12組がフランスの名曲にチャレンジしている。たとえば「ラ・ボエーム」まぎれないスペインの色、ディープではあってもけしてゲテモノなんかじゃない。世の中には凄い音楽がキラ星のように存在し、でも聴く幸運に巡り会うのは、ほんのわずかということを実感しながら聴き入った。


083 レイ・チャールズ死す!

彼の主演作「星空のバラード」を立川の映画館に見に行ったのは、中学の終わりのころか・・・盲学校の教室、子供の前でオルガンを弾きながら唄う「旅立てジャック」、あれほど感動させるシーンも少ない。ラストは彼の専属ビッグバンドを擁するステージで「アイ・ガッタ・ウーマン」。これも最高で、イントロのピアノは「エリーゼのために」なんだよねえ。今夜はこのサントラ盤をしみじみ聴いてみたい。
そんなわけで、Ballade in Blueは両面を聴きとおしてしまった。このレコードは15歳のときに買ったもの。当時は聴く頻度が多かったけれど、たぶん20年ぶりくらいの再会だった。「旅立てジャック」より「ケアレス・ラブ」に魅せられたのは、単に年のせいか(笑)。それと彼の自前のビッグバンドも凄い。荒削りだけどスピリットが充満。初期の「ホット・ロッド」なんて曲をぜひ聴いてみてほしい。


088 コスプレじゃーないのだ

10000マニアックスのリードヴォーカリストだったナタリー・マーチャントが1998年に発表した「オフェーリア」。彼女自身の作詞・作曲で、7人のまったく境遇の異なる女性を演じた物語でもある。優しさと儚さと芯の強さをうちに秘めたその歌声は、カントリーフレーバーを漂わせながらもスザンヌ・ベガや、とおくキャロル・キングにつながるコンテンポラリー女性ヴォーカルの系譜だ。この「オフェーリア」のジャケットではその7人の女性を彼女自身のヴィジュアルで表現しているのが興味深い。


163 Eva Cassidy

しなやかな枝と輝く青葉、真っ直ぐに伸びる一本の樹。
Eva Cassidyはコンテンポラリー女性ヴォーカルの系譜のなかで、絶対に外せない大きな存在になるはずであった。1996年11月に33歳で亡くなっていなければ・・・。
レノン-マッカートニーの「イエスタデイ」、旋律を借りてはいるものの彼女でしか歌い表せないワン・アンド・オンリーの世界。これを聴きながら彼女の消息を調べていて驚き、絶句した。

このアルバム「Live At Blues Alley」は1996年の1月にWashington DCにあるライブハウスで、彼女の恋人が録音したもの。彼女の死後、両親の努力で世に出たと伝えられている。黒枠のジャケットデザインといい、後半に秋の曲を続けて「素晴らしきこの世界」で終わるライブ、やや曲間を置いてスタジオ録音のゴスペルで締めくくる見事なまでの構成。彼女はこの録音から10か月後、秋の終わりにこの世を去った。






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