047 ドラマーのタイムセンス
ベーシストは近未来の時空に切り込んでスペースを構築する。それをフィックスし既成事実化するのがドラマーの仕事ではないかと思う。ウイントン・ケリー「KELLY
GREAT」のフィリー・ジョー・ジョーンズを聴いていて、アート・ブレイキーのプレイに似ていると思った。ベテランリスナーが見当違いを指摘しそうだけど、とにかくそう感じた。ブレイキーはもっと端正で厳密で、較べればちょっとルーズで自在なフィリー・ジョーの奏法は、いっけん正反対に聴こえるかもしれない。でも、音の前後のスペース取りや、パルスを次に繋げたり断ち切ったりするドラム作法や、彼らの意識の向かい方に共通のものを感じた。ことのついでに、ブッカー・リトルとチェット・ベイカーが似ている、なんていうとみんな相手してくれないよねえ・・・
048 マイルススタイル
マイルス・デイビスは意志の人だと思う。強力なテンションで外側の膜が覆いつくされ、彼が望むコンセプトをカタチにしている。ぼくは30代のころまでマイルスを聴かなかった。カッコ付けすぎてると思ったのは、じつは膜の外側の部分しか感じていなかったんだと、いまになって反省している。なわけでクリフォード・ブラウンやリー・モーガンが好きだった。彼らには強靱な膜が見あたらず、皮膚の下の実体が分かりやすかったからだ。40代になって、人間いろいろ思うようにはならないもんだと振り返ったとき、ふとマイルスの音を愛しいものに感じた。膜はステンレスのそれではなく、見えない「意志」の力そのものだと解った。いま感じるマイルスは、ちょっと苦くて透明で、でも例えようもなく優しい音楽になっている。
050 マイルスマイベスト
「リラクシン」も「デコイ」も好きだけれど、ショーター、ハンコックを擁していたころの、コロムビア時代のレコードをよく聴いている。「E.S.P」「ネフェルティティ」などは、ネクストステージへの過度的作品といったとらえ方をされることが多い。でもこの期間が、いちばん濃密な音楽をつくっていたんじゃないかと思う。録音もコロムビア以前のヴァン・ゲルダーサウンドよりナチュラルに音楽を捉えているし、表現のダイナミクスが凄い。これらが平板に聴こえるとすれば、問題はオーディオ装置にあるとあえて言ってしまおう(笑)。エレクトリック・マイルスは「音宇宙的」豊穣さで空前絶後ではあるけど、彼のプロデューサー的な局面が見えすぎるのが残念だ。
053 ミッドナイト・ブルー
ルディー・ヴァン・ゲルダーのギター録音はどれも素敵だ。ブルーノート10インチ盤のタル・ファーロウに始まり、ケニー・バレルもグラント・グリーンも、エレクトリック・ギター(アンプ)のウオームでブリリアントなタッチを余すことなく捉えている。たとえばロリンズの「アルフィー」、ラージコンボの分厚いサウンドテクスチュアを、バレルの鮮烈なタッチが切り開いていく。ジミ−&ウエスの「ダイナミック・デュオ」もオルガンとギターの音触感の対比が絶妙で面白い。こんなふうに採れるエンジニア、他にいないよね。こんど「ヴァン・ゲルダーのギターだけコンサート」ってのをやりたくなった(笑)。
064 ベイカー&リトル
チェット・ベイカーとブッカー・リトルが似ていると書いたところ、「どこが似ているんだ、説明せよ」とのメールを頂戴した。もっともな疑問である。元来アートは、その分野のなかで完結しているわけで、音楽や彫刻が伝えるものを文章で表現することは、ほとんど不可能だ。「文学」というジャンルは、その困難を背負う自覚をもつことで表現芸術たりえているけれど、この日記の短文は文学とはほど遠いレベルなので・・・と無駄な言い訳が長い(笑)。
この両人が似ていると思ったのは、「儚い夢、あるいは消えてゆくものへの慈しみを、有音と無音の間に宿らせている。そして音を紡ぐ近未来への眼差しの優しさが・・・」と文字にしてみたけれど、ちょっと違うなあ。申し訳ない。
347 FIRST FLIGHT
ジャズのレコードで初めて買ったのはキャノンボール・アダレイで、「WORK
SONG」と「DAT DARE」をカップリングした33回転EPである(写真右)。これはLP時代末期まで長らく入手困難だった「THEM
DIRTY BLUES」のダイジェスト盤だ。中学生だったから、12インチLP盤には手が届かなかった。
ある時TBSラジオの深夜番組でビル・エバンスの新譜「TRIO64」を知り、意を決してレコード屋へ走った。ところが店には在庫がなく代わりに求めたのがオスカー・ピーターソン。アルバム「NIGHT
TRAIN」のナンバーを中心に組まれたベスト盤であったが、最終トラックの「Close Your Eyes」に狂喜した。
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この「Close Your Eyes」、彼の最高傑作と思われるアルバム「The Jazz Soul of Oscar Peterson」の中の一曲であることを知ったのはずっと後になってからだ。Oscar
Peterson, Ray Brown, Ed Thigpenからなるゴールデントリオが結成された1959年の録音である。ブラウンの強靱で有機っぽいビートに乗ってピーターソンが繰り出す音列の多彩さと構成力は永遠に色あせないだろう。
385 似ているかどうかではなくて
自らの響きを冷徹なまでに観察し、次の音を紡いでいく作法に共通のものを感じる。感情のおもむくままに音を垂れ流すのではないミュージシャンは、みんなそういう資質をもっているけれど、この二人に共通するのはサーボコントロールのスパンが非常に短いことだ。ギーゼキング、ミケランジェリの系譜に通じるような気がするし、三味線でいえば三世今藤長十郎だろう。匂い立つ「タッチ」、テンションと測りあう「余韻」というものがここにはある。
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