 2091 菅野流儀で大いに影響をうけた部分を少々・・・
 その1:分散音源と空間合成:
これが菅野サウンドの肝ではないかと思っている。菅野さんは、同軸ユニットの弊害を幾度となく述べていた。もとより帯域分割されたそれぞれのユニットは空間で合成されて連続波形に戻るわけで、それは各ユニットが近かろうと遠かろうと同じ原理だ。同軸に限らず近接したユニットの問題は、空間合成される前にユニット近傍でお互いの波形が攪乱される危険だと考える。ピンポイント放射による定位の良さが喧伝されるが、混変調ひずみを伴った定位にどれほどの意味があるのか? 正しい定位あるいは音場再現は空間合成された連続波形でのみで成立するという思いが私自身にあったので、菅野理論に我が意を得たわけだ。適度な距離をもって配置された各ユニットからストレスなく空間で合成する。リスニング空間にある程度のエアーボリュームは必要だが、これが理想形と思っている。じっさいに菅野邸のJBL、ジャーマンフィジックスもさらにはマッキンXRTにしても、この作法に沿っていると思われる。
その2:超高域ストレスの解消:
菅野邸のJBLウーファーとトルバドールのセットでは、エラック4PIの付加に始まり、様々なスーパーツイターが追加されるようになった。単に帯域拡張やエネルギーバランスの問題とは思えず、これは高域の位相制御を企んでいると直感した。トルバドールは分割振動で全周囲に拡散させる音源であり、4PIもリングラジエターで全周囲拡散だが振動パターンは大幅に異なる。極端に波長の短い超高域においては複数ユニットの位相を統一することは困難であり、リスニングポジションに幅をもたせるとほとんど無意味であるという仮定のうえに、それなら拡散(位相を)させてしまうという手法。画像処理のスキルで言う”ディザの封入”のような効果を狙っているのだろう。とはいえそれは単純な話ではなく、驚くほど綿密な実験のうえだ。トルバドールのデータシートが束になって積み上げられている光景を目撃した知人がいる。ツイターの位置決めの微細な自家製グリッドガイドを私も目の当たりにしている。管弦楽を大音量で再生してこれだけストレスのない音響は、かつて耳にしたことのないレベルだが、それは絶え間ない調整の成果なのだ。
その3:単純思考の排除:
重ければいい、硬ければいいというわけはなく、すべてはバランスだということ。長くなるので以下略(笑)
その4:普遍に至る主観:
提唱なさった「レコード演奏家」その誤解というのは”自己表現”のレベルなのではないだろうか? 長くなるので以下略(笑)
菅野先生はその評論において、大枠での疑念を示しても自身の具体的な解決法は示さなかった。オーディオ再生を突き詰めると、自分自身の美的価値観の問題に帰納するわけで、それは汎用性があるわけでなく問題意識をもった個々人が自ら解決せよというスタンスなのだと思う。
印象に残っている菅野先生の言葉:
「ぼくはねぇ、豹変する装置を目指しているんだよ。」 |