1164 潜在意識・・・
 ピエール・シモンは売れない映画俳優なのだけれど、カーチェイスのシーンなんかでも、スタントマンがいらないくらいのすごい運転テクニックを持っているんだ。その彼が、助手席になんとあのセーヌ左岸の歌姫「バルバラ」を乗せているところから、それは始まったのだ。クルマは真っ新なルノー8ゴルディーニだから1962年くらいか。深紅のボディのフロントボンネットからルーフ、リアボンネットにかけて白線が二本。パリの石畳の裏道でスピンターンなんか決めているうちに、風景がめまぐるしく変わっていき、なんか日本っぽい感じ・・・。ありゃ、これは"分倍河原"と"郷土の森"をつなぐ「かえで通り」じゃないかなんて驚くのはまだ早くて、ステアリングを握っているのはピエールじゃなく、わたくしになっているのだ。なのに、隣のシートのバルバラはそのまま。参ったなぁ、なに話そう、いやフランス語はわからん、なんて考える間もなく、クルマは武蔵府中税務署前を通り過ぎ、中央高速の真下に入ったところで・目・が・覚・め・た。 |