827 オーディオの時代 その2
 しかし、長岡鉄男さんの音と音楽に対する文章表現に納得していたわけではない。"金粉が散乱"したり"真綿でくるんだハンマー"が打ち込まれるのはいいとしても、"せつない音"とか"やるせない音"はあんまりだ(笑) 物質としての音は聞こえてきても、音楽の在りようというか心にどう響くかは明らかにしなかった。もっとも、ご自身も「オーディオは音楽を聴くためだけの存在ではない」と公言していたから、音楽表現に踏み込まないオーディオ評論を標榜していたのだろう。それはそれで一部マニアには評価されたとしても、普通の音楽ファンとオーディオの乖離現象を招いた一因ではないかと今でも思っている。(ぼくは普通の音楽ファンだったから、身に染みているのだ・・・笑) もうひとつ、氏の実績のなかで不可解なのは、音楽ソースを累積スペクトラムで表す手法だ。それも1/3octバンドパスフィルタの超荒っぽい分析。あれに如何ほどの価値があるのか、ぼくには解らない。
と、批判めいた記述をしてしまったけれど、オーディオに限らず先入観を排除して真実を追求するところが好きだったし、また、その姿勢は現代音楽や民族音楽のユニークなレコード紹介にも繋がっていったのだと思う。音楽はクラシックだけじゃないよ、とね。(不定期でつづく) |