1058 菊池成孔「記憶喪失学」における壮絶と柔和
 CompactDiscという器に、ここまでの質感を封じ込めたということは、はっきり言って事件だ。音楽を聴くうえでオーディオに拘りすぎるある種の後ろめたさを完璧なまでに吹き飛ばしたとでも言えようか。この凄さは何時以来かとしばし考え、そうだ、YAMAHA製ベースアンプを中央に据えた自作4wayシステムで聴いたEW&F「All in All」が最初にして最後だったと思い出した。
音楽を形成する個々の(ダイレクトな)音素がきわめて強靱なうえに、それらの余韻を活かす空間をきちんと確保している。しなやかで甘美な蝕感と悪魔的エッジがシームレスに共生している。生半可な再生装置では、とくに後者の再現は難しいだろう。 |