1927 グレン・グールド1981年録音の「ゴールドベルク変奏曲」について
 アリアのゆるやかな曲線が微かな余韻とともに綴じられ、第1変奏に入る寸前の空間(静寂)はオーディオマニアでなくても心躍る一瞬だ。その静寂と第1変奏冒頭の強打音との対比は、第30変奏までの全行程の物語あるいはダイナミズムを予告しているように思える。
グレン・グールド1981年録音の「ゴールドベルク変奏曲」は、コンパクトディスクがデビューする前年のデジタル録音であり、CDは無論のことアナログLPも「DR」表記(デジタルマスターからカッティング)であった。DADの盟主であるSONYが「デジタル」を世の中に認知させるべく送り出したと言うべきか。
Glenn Gould Remastered - The Complete Columbia Album Collection は、Columbiaにおけるグールドの全軌跡をたどるCD 81枚組のセットだが、リリース解説では「ソニー・クラシカルのマスターテープ・アーカイヴに厳重に保管されているオリジナル・アナログ・マスターを使用してDSD変換し、CDに落とし込んだ」とある。81年のゴールドベルクはどうなのか? セットに付属する400ページオールカラーの解説本には、以下のように明記されている。以下引用 ・ in 1981, when glenn gould recorded his second set of the goldberg variation for columbia, digital recording technology was new and still in its infancy. as a precaution, many recorded simultaneously onto analogue tape at a time when professional analogue recording was at its peak. the remasters analogue version of the 1981 goldberg variation has been chosen for inclusion in this set. (わたくしの意訳) 1981年の再演時はまだデジタル技術の黎明期であったため、念のため当時最高レベルにあったアナログテープへ同時記録していて、このセットではこちらを選んでいます。 ・ という次第で、アナログテープ音源の81年のゴールドベルクは、このセット初めて聴いたのだが、一瞬同じ演奏なのかと耳を疑う、しなやかで躍動感溢れるサウンドだった。特に左手の動きの軽やかさ! 仏頂面で弾いてたと思っていたら、なんと微笑んでいるかのような色彩感!この一枚だけでも価値があった。もうすぐ、DSDからSACD化したディスクが出るらしい。とはいえ、同じ演奏を4枚も揃えるのは趣味ではないが、ことグールドに関しては、リスニングルームの空気を揺らした時点が「音楽の一回性」の現場になるはずで、やはり異なる演奏と言うべきなのか・・・ |