938 立川談志10時間スペシャルで思ったこと
 さきの日曜日のNHK-BS hiのスペシャル番組。お昼の12時から夜11時まで、途中で大河ドラマをはさんだものの延々10時間!ひとりのアーティストのための画期的企画ではあるけど、どうも"談志はスゴイぞ"一点張りのスタンスは如何なものかと思った。
カリスマに集まる関係者たちが賞賛するのは仕方ないが、放送局まで同じスタンスだったらかなりマズイ。なぜなら談志の落語はそれほどのものではないと思うのよね。わたくしめは小学4年のおり、小ゑんから談志を襲名したときの実況中継をNHKの第一放送で聴いていたが、後年その芸質が進化したようには思えないのだ。
彼の場合、その才気のせいで落語だけ一心不乱というわけではなかったし、それはそれで価値はあるけれど、同世代でいえば志ん朝の晩年の芸域には届いていないと思う。ましてや志ん生や圓生の醸し出す"落語的超リアル"とはかなり距離があるというのが個人的な評価だ。といってけして嫌いな落語家ではなくて、その昔、彼女(現・妻)を正月デートに誘った際は東宝名人会の談志の高座が目当てだったくらいなのだから。いまでもワンアンドオンリーのアーティストとしては最高レベルの存在だけど、けして名人とか天才なんかではない。
で、はなしを放送に戻すと、10年ちかく前の三鷹公会堂「芝浜」は主人公の女房の描き方・仕草に談志的現代を忍ばせながら、若いときのような理屈のエッジが消え失せて、彼の枯れる芸とはこのようなものかと納得したのだが、スタジオ収録の「居残り佐平次」は流れの悪い二流の落語でしかなかった。
あの口演前後の極端な落ち込みぶりは、思い描く理想像と現実のギャップに苦しむ真摯な表現者の姿だと思うし、この番組はそこをポイントに捉えていたから10時間の価値はあったと思うが、むしろ、寄ってたかって祭り上げる取り巻き連を談志はどんな思いで見ているのか、そこが気になる部分だ。 |