A/D変換におけるプレフィルタの役割を考える。


前回の稿では、デジタルサンプリングとポストフィルタ(LPF)の仕組みをアナログ復元という観点から考察しました。
今回は、A/D(アナログ→デジタル)変換で、重要なプロセスといえる「プレフィルタ」の役割を究明したいと思います。 デジタル処理の参考書を紐解くと、A/D変換で必ず触れられるのが「プレフィルタ」の必要性です。「シャノンの定理から導かれる高域記録限界はサンプリング値の1/2f以下であり、そのためには適切なハイ・カット・フィルタ(LPF)を通す必要がある・・・」と記されています。
実は、私にはこれの意味するものが解らなかったのです。折り返しノイズの弊害を示されても、D/A変換後のポスト・フィルタがあれば問題ないではないか、などと迂闊にも思ったりしていました。
ところがこのLPFでもっとも重要と思われるポイントは、サンプリングを点と点で結ぶのではなく測定点をある幅をもった平均化されたデータとして取り込むことであると気がつきました。ここで言う「幅」は画像なら解像度方向、オーディオなら時間軸方向ということになります。そしてこの平均化されたデータこそが、後の補間作業の素材になるわけです。

図Aをオリジナルのアナログ信号と仮定します。もちろんこの画像は72dpiのデータですので、これをアナログ画像というのはクレームが来そうですが、鋭いコーナーやエッジは超高域成分であるとお考えいただき、どうかご納得ください。

図A(オリジナル画像)

この画像を「プレフィルタ」を通さずにサンプリングしたのが図Bです。元画像Aでほぼ限界の細さで存在していたヘアーラインの密集部分は、ほとんど破綻状態といえます。図B'はこの状態からフィルタリングしたもので、楕円のジャギーは無くならないし、垂直線の解像度はまったく無惨な状況です。

図B(ノンフィルタでサンプリング) 図B'(左図をフィルタリング)

図Cは先のオリジナル画像「図A」に、これから行うサンプリング値に最適化した「プレフィルタ」を通した状態です。単に境界をぼかしただけに見えますが、オーディオ信号でいえば高域再生限界から上の帯域を急激にハイ・カットした状態と同じなのです。

図C(オリジナル画像にプレフィルタ処理)

これをサンプリングすると図Dになります。フィルタ処理なしでサンプリングした図Bと較べると見栄えの良さは一目瞭然で、自然な補完が掛かり、細いラインは解像度の限界を越えた再現力を持っているように錯覚させます。

図D〔上図をサンプリング)


このようなプレフィルタの効用を理解しないところに、数々のデジタルにまつわる誤解が生じているように思えます(自戒をこめて・・)。
参考としてサンプリング後の3点の画像を、オリジナルと同サイズに単純拡大したものを下記に示します。
なお、申し添えますと今回の画像処理過程では通常のアプリケーションで行われる、アンチエイリアスなどの補間は一切おこなっていません。




先に記したように、アナログ→デジタル→アナログという変換プロセスは、音声をサインカーブで表すような単純モデル化が困難な多面体です。目に見えにくい事象を少しでも視覚化できないか、という個人的興味から推論を交えてアプローチしたものです。誤った情報を流すのは本意ではありませんので、どうかお気づきの点があれば何なりとご指摘ください。

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