LS3/5Aに再挑戦! 2003.09.06 追加 LS3/5A(初期型)についての短い解説 1970年代に登場した、イギリスBBC規格の小型モニタースピーカ、ロジャースLS3/5A。 高さ30.5cmの密閉ミニキャビネットの中身は、KEF社が製造する11cmウーファーB110と2cmソフトドームのT27で構成されています。KEFブランドでもこれらのユニットを用いた製品をコンシュマー向けに出していて、一世を風靡したModel104はパッシブラジエター(ドロンコーン)を追加した形式です。 ただしLS3/5AではウーファーB110が厳密な周波数基準に沿ったB110-LS2/7規格になっていること、ネットワークが13個もの素子で構成され、しかも高域アッテネートにトランスのタップを用いるなど、外見のキュートさと裏腹にかなり高度なスピーカシステムなのです。キャビネットの素材は密度の高い樺合板ですが、現代の無共振をねらったものとは異なる板厚であり、この響きをどのようにコントロールするかが鳴らし方の重要なファクターになると思います。 インピーダンスは英国の伝統にならった15オームで、能率はかなり低く現在の基準で83dB以下であり、最大音圧レベルは95dBとなっていますが、限界付近ではリニアリティがかなり悪化します。 ちなみにLS3/5Aが発表されてから15年後の1988年に若干の仕様変更がなされました。ウーファーB110のエッジやボイスコイルの耐入力がアップされ、ネットワークが全面的に改訂されました。 インピーダンス表示も11オームに変更されましたが、高域ユニットT27が変更を受けていないことや、初期型でさえ実測インピーダンスは10.1オーム程度であったこと(STEREO SOUND No.46における測定値)を考えると、より現実的な表示に改めたと考える方が自然でしょう。下記の写真はネットワークの変遷で、左が初期型FL6/23です。左上のマッチングトランスから1dBステップのタップが数本出ています。右の後期型FL6/38では、マッチングトランスが無くなり抵抗でアッテネートしているのが解ります。 LS3/5Aとの出会いをちょっとだけ・・・ 私事ですが、現在アルテックをメインにしているとはいえ、振り返ると圧倒的にイギリスを始め欧州系のスピーカを使用している期間が長かったのです。フィリップス、KEF、タンノイ、ルボックス、A&E等・・・。 1974年ごろ、KEFのModel103を購入するとき、LS3/5Aが国内で発売されはじめたのですが、音圧が取れないことや大きさの割に高価だった(ペアで15万?)ということで断念していました。 その後、自宅でLS3/5Aを聴く機会があり、その只物ではない精緻な表現、芳しさに卒倒しそうになりました。しかし聴き込むとプログラムをかなり選ぶというか、室内楽やクラシックのベルカントは素晴らしいとしても、やや上澄みを掬っている感がなきにしもあらずで、結局のところ手元に置いたのは、それから10年後のことでした。 空間に孤立がベスト? 購入したLS3/5Aはブラック塗装のキャノンコネクトオンリーのプロ仕様で、15オーム表示の初期型です。この後の経緯は別ページで触れていますが以下に抜粋させていただきます。 ロジャースのLS3/5A Proを長年メインスピーカとして愛用してきました。楽音の中低域をしっかり表現しながら弱音方向のグラデーションが美しいといった利点が、音圧の取れないハンデを補っています。アンプはクレル社初期の傑作KSA-50を使用、LS3/5Aとは思えぬような粘りのある音を出していましたが、管球式のシングルアンプで鳴らしたくなり、当時刊行された渡辺直樹氏の[ウエスタンエレクトリック研究]を参考に350Aシングルステレオアンプを自作することになります。 その後350AシングルとLS3/5Aの蜜月は続き、音楽に集中する日々が過ぎていきます。この状態って本当は一番幸福な時なのですが…、気がついてみるとJAZZをあまり聴かなくなっている、聴いてもスタン・ゲッツとかジョージ・シアリングばかり。最初に触れた「音楽イメージ」の喚起ということで言えば、黒っぽいJAZZに関しての喚起力があきらかに弱いということです。 スピーカの表現能力のひとつにスケール再現力というのがあると思うんですが、LS3/5AやクオードESLのように小音量領域にダイナミックレンジを拡げたシステムでは、音場を遠方に展開することで、見かけ上のスケールを獲得しています。遠くのものは音も小さいという訳です。実際、LS3/5Aのスケール再現力は非常に高く、教会の大聖堂の広大な空間を再現します。 しかしJAZZにしても義太夫にしても、プレイヤーのエモーションを感じたければ、出来るだけ近くで聴きたいと誰でも思うはずです。原音と同音量とは言わないまでも、せめてイメージを喚起してくれる音量が欲しい…、ということから新たなスピーカシステムへの模索が始まりました。 というわけでLS3/5Aはメインスピーカの座を追放されてしまいましたが、これだけは不思議と手放せなかったのです。自作アンプに自作スピーカでは、思いもよらぬ「危ない」方向に進む危険があります。LS3/5Aはその時々で軌道修正の役目を担ってくれました。 設置方法もいろいろトライしましたが、ベストと思われるのは、10畳間のほぼ1/3(後方の壁から1.5m離す)の位置に左右間隔1.2mで耳まで1mといったニア・フィールド・リスニングです。美点を失なうことなく音の芯をしっかり表現します。音楽を聴くのになんの不足もありません。しかしながらオーディオ専用ルームではない「生活空間」でこの位置を保つのはいくら理解のある家族がいたとしても無理なのです(笑)。 で、考え方を変えて実行してみた メインシステムに対して、「サブ」というお茶を濁したような関係ではなく、LS3/5Aを恒久的に設置したいという考えは、ずーっと持っていましたが、家人の理解を得られ、かつ見苦しくなく、かつ音響的にも満足のいく方策があるか・・・、構想1年の末、この正月休みにとうとうやってしまいました。 コンセプトはキャビネットも含めたスピーカの振動エネルギーを全てリスニングポイントに持ってくるということです。イメージとしては壁面コーナーをホーンに見立てLS3/5Aがドライバーになるという・・・暴挙か。
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