ECC84/SRPP 無帰還フォノイコライザーアンプの設計製作

ラインアンプをバランスアウトに変更しました。2006.08.20
フォノイコライザー部分をリニューアルしました。2006.08.29


フォノモジュールの全面変更

基本的な構成は初代機から変更はありません。2段増幅で目一杯電圧を上げたうえで、DCバイアスが掛かったままイコライジングする。これはディスクからの微細な情報を可能なかぎり埋もれさせないという理念(おおげさ!)のなせる技というか、CR型の欠点といわれるSNの改善にも貢献すると考えていたのです。

時定数算出の元となる"R2"抵抗は3.9Kと管球アンプにしては非常に低い値を与えています。これはイコライザーの出力をラインアンプの50KΩボリュームで受けるからで、同時に前段の内部抵抗の影響を考えると、あまり低くは出来ないという微妙な関係にあります。このECC84 SRPPのカソードアウトの出力インピーダンスは約1.2KΩなので、ぎりぎりといったところか。
計算上の時定数はターンオーバーが312μsと、規格の318μsから2%ほど中域寄りからターンを始めますが、誤差の範囲と思っています。ここを聴感で変更すると後々痛い目にあうのは経験済み。ロールオフは早めに減衰する数値を意図的に選んでいます。"C2"は本来0.01923μFが正しい値ですが、たぶん高域にウエイトが乗ったサウンドになるはず。わが家のALTEC 802Dでは2kHz前後がやや強い傾向があるので、一種の"割れ鍋綴じ蓋的"効用も期待できる。というか、この"C2"に東一の0.022μFのオイルコンデンサを使うという思いがあって、"R2"の数値が決まったと言ったほうが正しいかも(笑)

CR型フォノイコは音質上の利点が喧伝されることは多いのですが、過去の銘記といわれるフォノイコライザーでCR型は意外と使われていません。記憶ではヤマハC1とデンオンのPRA-2000くらいか? マランツ7型もマッキンのC22もNF型。
じつは7年前の上記の自作フォノイコを初めて音出ししたとき、なんて無骨で色気の少ない音なんだと思いました。ただ、ギレリスのピアノのように骨格がしっかりしてナヨナヨしない長所もあったわけで、あれはスプラグのフィルムコンデンサが音色を支配していたと今は思っています。今回は定数問題も若干はあるでしょうが、東一のオイルコンの影響が大きいのではないだろうか。従来の実体感の上に、仄かに匂うような柔らかな響きや、控えめながら色数の多いグラデーションがレコード溝からようやく取り出せたという感を強くしています。


ラインアンプのバランスアウト化

パワーアンプを英国MERIDIAN社の557というモデルに変更したため、ラインアンプ部をバランス出力に変更しました。元来このラインアンプはマッチングトランスを介することで150オーム出力を得ていましたが、この二次側の巻き線はスプリット(分離、結合選択可)であるため、結線の変更で600オームのバランスアウトが容易に得られます。巻き線の中点を音声信号のグラウンドとし、両端をホット/コールドに見立てるわけです。バランス伝送のために新たにトランスを加えるのと違って、元々付いているものを利用するのだから劣化の心配はないという判断です。



*以下の記述は変更前(2001年)のものです。

CD再生に特化したラインアンプではなく、アナログディスクを再生するためのフォノイコライザーアンプを自作するとなると、種々のハードルが目前に立ちふさがります。筆頭はノイズ対策で、MCカートリッジでは昇圧トランスを使ったとしても、定格5mV程度の出力をローノイズのままでCD出力なみにゲインアップしなければなりません。そして正確な逆RIAAカーブを得るためのフィルタ設計です。偏差に関しては±0.2dBレベルを追求した数々の制作記事が脳裏をよぎりますが、DMC以外の測定器を備えない私などには、とてつもなく険しい道のりといえます。まぁ最終的にはダイナミックな変動を伴う音楽信号をスピーカから再生するのが目的と開き直り、聴感を尊重しつつ定数の微調整で臨むこととします。
という次第で、調整が比較的やりやすいCR型RIAAフィルタを用いた、3段程度のSRPPドライブ(無帰還)という基本構想が浮かびます。通常このような用途には双三極管6DJ8が使われるケースが多いと思いますが、へそ曲がりの当方としては(笑)カスケード用途のECC84を選びました。この球は過去に森川忠勇さんが6C33CB/OTLの初段に使っていて、なかなかの素性を見せていたので注目していました。ただECC84はミドルμ増幅管なので3段で希望するゲインが得られるかどうか、最終段をトランスドライブに出来るかも含め大いに悩んだところです。製作コンセプトは「微細音の再現性を徹底追求」だってか・・・。
もうひとつ、プリアンプ設計で重要なのはインタフェイスデザインで、これには相当の時間を費やしています。操作性と入出力信号の整合性の両面からアプローチしなければなりませんし、これが実は一番難しいことかもしれません。

ECC84のEP/IP特性(左)SRPPの周波数特性(右)SRPPの出力対歪率特性(右下)MJ1993年4月号執筆の森川忠勇氏のご承諾を得て掲載します。

全体構造:

SN比の徹底追及という面から電源部は別筐体とし、本体はマークレビンソンJC2のような薄型構造とします。本当は電源込みの一体型で、さりげなくお洒落に作りたいものですが、持てる技術と求める音との兼ね合いで、このような野暮な形態になってしまいました。チューブの取り付け方は、かつてのアルテックのプリアンプ1567のように、後方に水平に突き出す構造になっています。フォノ入力端子は初段管のグリッド間近に設置、ハイレベル入力はフロントパネルのセレクタswに隣接した位置とします。さらに、常用しているパラメトリックEQを挿入するための入出力端子(テープモニタ)も加えることにしました。

右端に6本のECC84が水平に突きだしている。グレーの箱はライントランスTF-5S。AUX入力はフロントセレクタの至近位置に配置。

回路構成:


トータルゲインを確保すべく初段をμドライブSRPP(回路図ベージュの部分)を採用。微細信号の欠落を少しでも防ぐためRIAA素子は2段目の後に挿入し、なおかつコンデンサ素子のリニアリティ向上のためDCバイアスを掛けた状態で動作させる(うす紫部分)構成ですが、問題は2段目入力がオーバーレベルになる危険性です。初段が理想どおり24倍のゲインを持っていると仮定し、2段目のグリッド電位から逆算すると、初段の最大入力は約80mV・・・基準値5mV/1kHzを0dBとすると、RIAAカーブでは高域14kHzで16.6dB増加しますので、ちょっと少ない気もしますが、ディスクの高域端にこんな高レベルの信号が刻まれているケースは少ないと勝手な判断をしました。
RIAA素子の定数は、前段の出力インピーダンスと後段の負荷抵抗値に密接に関わりますし、無帰還CR型は高域の出力インピーダンスが大幅に下るので、この辺の考慮も必要。また、素子をDCバイアス上に置いた場合、定数が若干変わるという報告が、宍戸さんの著作にありました。要は一筋縄ではいかないと言うことで、スピーカを負荷にしたネットワーク設計と似ていると言えなくもありません。大抵はロールオフ用Cは計算値より大きなものが必要だったりします。今回のケースでは、直列の47Kは聴感上のスペクトラムバランスからこの値に決定したものですし、ロールオフ用Cに足した6800pfも同様です。
RIAA素子は100Kオーム*のボリュームが負荷となり3段目へ入ります。2段目と3段目は同一動作のオペレーションになっていますが、歪み打ち消しを狙ったものではありません。入力レベルがほぼ同等といった観点からこのようになりました。OUTPUTはカソード出力からDCカット用4.7μを経て取り出しています。同時に10K/600オームのマッチングトランスを介した出力を装備しています。(*現在、50Kのボリュームを試用中です。)

電源部:

B電源、ヒータともにダイオード整流で交流分の残留を極度に排除する構成ですが、チョークもレギュレータも使っていません。B電源で8段、ヒータで4段におよぶR/Cフィルタという野蛮なものです。またトランスとダイオード間にはスナバー回路(うす青部分)を装着しスパイクノイズの駆除を目論んでいます。ヒーター回路はSRPPの定石としてDCバイアスを与えています。

下に最終的な回路を示します。表示電圧・電流は実測値です。初段はμ値と同等の増幅率を示し、μドライブの面目を保ちました。また、全段とも規定にほぼ準じた数値を示していて、ECC84のバラツキのなさを実感します。


製作:


パーツサイズを実測しMac上でシミュレートしつつ設計しました。特にアース配線はループを形成しないように配慮した1点アースになっています。反省点としては、パーツに即して厳密なレイアウトをすると、あとで変更するときに大変な困難を伴う・・・これは身にしみました。是枝氏の作品に見られるような見事なレイアウトは、バラックセットで推敲を重ねた後の成果なのでしょうね。
ケースは本体、電源ともタカチのオールアルミ製の既製品を使用していますが、パネル文字はMacで製作したデータをフィルム出力の上、シルクスクリーンで印刷しています。ボリュームノブは気に入ったものが無く、国産のレオスタット型を削り直して使用。C/R素子にオーディオ用高級品は要所にしか使っていません。カソードパスコンにMJのアンプコンテストの賞品でもらったOSコンがちょうど使えたのがラッキー。チューブは初段がテレフンケン、その他がムラード製となっています。
なおECC84/SRPPはミドルμとはいえ、高域レンジが100kHzまでフラットに伸びているため寄生振動に注意する必要があります。3段目のグリッド・シリーズの330オームは、やや数値が足りないようで球によっては発振寸前のケースがありました。現在のところは球の選別でしのいでいます。


画面右端にフォノ入力。その近くのソケット周辺はミュードライブのため込み入っている。RIAA素子のCはスプラグのフィルム型。


別筐体の電源部。側板を外して電圧調整できるフレキシブル構造。

音質について:

完成から4年ちかく経過していますが、当初フォノイコライザーに関しては、ひいき目に見ても芳しいものではなく、幾度となく解体の誘惑に晒されました。思いとどまったのは終段ラインアンプの出来映えで、CDではこれを経由するのと、パワーアンプダイレクトとで大きな差が見られました。このラインアンプを通すと、豊かでしなやかな質感が音楽を楽しく聴かせます。ノイズ性能は優秀でフルボリュームでも殆ど関知できません。以前から使用しているナカミチのプリアンプと較べても、まったくひけを取らない上、AUXのゲインはこの方が高く、約20Vの最大出力があります。
このカソード出力にAKGの600オームのヘッドフォンを接続した音も秀逸でした。見晴らしが良く強靱でしなやかな音と呼べばいいのか・・・。
ちなみにトランスアウトではゲインがほぼ1/4になり、通常のパワーアンプに適した出力となりますが、このタムラのパーマロイトランスは色彩感がほんの少し減少するように思えます。設計当初はこのトランスアウトをパワーアンプに送る予定でしたが、カソードの高出力、高音質を生かすべく、パワーアンプの初段を全面変更しエネルギーロスを生じない構成にして現在に至っています。
懸案のイコライザー調整はほぼ3年の歳月がかかりました。掲載した回路図の定数で、かろうじて満足出来るレベルになったと判断したのは、つい先月(2001年8月)のことです。私のオーディオ機器の判断は単純なものでして、音楽を聴いていて介在する機器の存在が気になってはいけない・・・ということなんです。うまくいかないときは、あの独善的な回路構成のせいにしていたのに、今はこの構成ならでは、などと思ったりして(いい気なもんだ)。ところでRIAA素子の調整で気がついたことがあります。それはスクラッチノイズの質と量が、気にならなくなるポイントが突然のように現れます。このときベストポイントの可能性が高いように思われてなりません。
ゲイン配分の問題点として、CDプレイヤーの出力と比べてフォノ出力がやや少ないことで、2段目もμドライブを採用すべきだったと悔やまれますが、この部分のプレート電圧を高くするとなると電源関係を見直す必要と、最終段でフルボリューム時に入力オーバーの危惧があるため、少しばかり躊躇しています。
フォノ入力限界80mVの不安ですが、DENON DL103SLをテクニクスのアモルファスMCトランスで40オーム受けした場合は、かなりハイレベル・カッティングと思われるディスクでも、問題はありませんでした。15オーム受けではやや辛い場面が生じるディスクが少々あるようで、いづれにしても限界に近いことは確かです。

最後に:

イコライザー素子はエージングでかなり性格を変えるようです。1日3時間程度の通電では、半年くらいは評価が難しいと感じました。もうひとつ、これは根拠が乏しいかもしれませんが、調整中に様々なスペクトラムバランスを聴いたわけですが、CR型イコライザーの限界?のような性格ををちょっとばかり窺い知ったような気がします。CR型ってのは例えていうと素肌美人なのですね。とにかくストレートで飾り気のない実直な音です。だから妖艶な響きを求めても・・・。
(この項おわり)


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